先入観を捨てて
date: 2006-04-15アン・リー監督のこれまでの映画は時として冗長で、これも退屈するかと思いきや、上映中ずっと身動きも瞬きもできませんでした。
映画を観て泣いた事などほとんどない私が 劇場を出て友達と会い、さんざん飲んで楽しく酔っ払い、家に帰ってから、深夜 急に内容を思い出して夜中にさめざめと涙を流してしまったのです。
幼い頃に両親をなくし兄弟も結婚して実家に居場所のなくなったイニスは早く温かい家庭を持ちたいと願い、アルマという婚約者を得て結婚を控えた年の夏に、羊の番をする仕事にありつき、そこでジャックと出会います。
1960年代アメリカでも特に保守的な西部だからこそ起こりえたストーリーであり、これを現代の、例えばニューヨークあたりに舞台をすえたなら主人公二人がこんなに苦しむことはなかったのです。
二人の苦しみもさることながら、彼らの妻達の苦悩、わけてもジャックの両親の辛さが身にしみる。
映画のエンディング近くにイニスがジャックの両親を訪ねる場面。
元々が寡黙なイニスと、小さな家に倹しく住むジャックの年老いた両親(おそらくは自分達の息子がゲイである事、イニスが息子の恋人である事を知っていたであろう)の間に交わされる言葉は少ない。
しかし、彼らの表情や眼差し、仕草がすべてを物語り、まるで昔の日本の映画を観ているかのような静謐なシーンだ。
主演二人の素晴らしい演技のおかげでこの映画はアメリカ映画史に残る傑作になったと思う。





